モンゴル赤十字社 組織強化へ向けた保健支援事業開始

近年、モンゴルでは気象災害の発生頻度が増加しています。日本赤十字社は、恒常化・深刻化する災害への対応を迫られるモンゴル赤十字社(以下、モンゴル赤)の組織強化のため、3ヵ年の保健支援事業の実施を決定しました。今回は、事業開始準備のために現地に出張した職員からの報告です。
モンゴルの国土は日本の国土面積の4倍であるのに対し、人口は日本の2.5%(323万人)しかありません。地方へ向かう道は、都市部を離れると道路の両側に地平線まで平原が広がり、時折可動式テント住宅のゲルと馬の群れが現れます。一度都市にはいると、牧歌的な雰囲気は消え、道路の整備された背の低い建物が連なります。
ウランバートルの高層ビルが立ち並ぶ工業都市のような雰囲気と、広大な平原と、小規模ながら整然とした地方都市と、モンゴルには様々な顔があります。

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雪や氷が大地を覆う状況が11月末から続く©IFRC

モンゴルでは、過去20年間に災害の発生件数が2倍に増加したといわれています。特に、人口が密集する首都ウランバートルでは、洪水のリスクが高い地域にも多くの人々が移り住み、また、人口の60%がゲル地区(可動式テントの住居が集中する地区)に暮らすため、洪水のたびに大きな被害を受けています。また、増加する人口に公共インフラが追い付かず、ウランバートルの中心部では、深刻な交通渋滞のため救急車の到着に30分以上かかることもあり、重い症状でも自力で病院に向かうことを選ぶ人が多くいます。
地方では、一度雪に覆われると道路や歩道が寸断され、最寄りの診療所に向かうことも困難になります。さらに昨年から今年にかけて「ゾド」と呼ばれる大規模な雪害が発生し、国内の総家畜数約6,000万頭のうち、4月までにおよそ10%にあたる600万頭強が死亡し、18万世帯を超える遊牧民の生活が危機にさらされています。雪や氷が解けるこれからの季節は、雪解け水による洪水が頻発し、水を媒介する疾患の流行が予想されます。雪による物理的な分断や、生活の不安などから、うつや不安を抱える人々が増加しており、精神的な健康への影響も深刻です。

20240422-0bb1d7163ba961819c4ef2ad2098e27d006edba7.jpeg県の災害備蓄倉庫も兼ねるダルハン・オール県支部倉庫©日本赤十字社

20240422-851e6c049e5d4eba50983726fea5d0800e7f0cb3.jpegセレンゲ支部の社屋©日本赤十字社

モンゴル赤は、同国の全土に支部とボランティアのネットワークを有し、地域に根付いた活動基盤を持っています。今回、5つの支部を訪問しましたが、いずれの支部も職員は3~6名と非常に少なく、ボランティアや、地域行政との密接な連携を通じて、社会福祉サービス、救急法の講習実施、災害時の緊急対応等、様々なサービスを提供していることが分かりました。
例えば、今回訪問したモンゴル第2の経済都市、ダルハン・オール県の支部内には災害備蓄倉庫があり、災害などの際にはここから、毛布や衛生用品など、被災者に配布する物資が運び出されます。このような倉庫がない支部では、建物の一角に救援物資がストックされ、緊急時に備えているとのことでした。

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支部の救急法講習セット©日本赤十字社

3ヵ年の支援では、救急法の普及とこころのケア活動のガイドラインや研修体系の整備に取り組みます。3年後に目指すのは、モンゴル赤の33ある支部で職員とボランティアが災害や緊急時に応急手当や、こころのケアを提供できるようになること、またそのための環境が整備されることです。
モンゴル赤はこれまで姉妹社の支援を受けて、国外から様々なガイドラインを導入してきましたが、これをモンゴルの災害や社会文化的背景に合わせるという作業はこれからです。
今回の出張で訪問した5つの支部でも救急法で使っている教材や、資機材にはばらつきがみられました。モンゴル赤の担当者は、救急法を指導するスタッフの質、数共に十分ではなく中長期的に底上げを図っていきたいと話しました。また、どの支部からも、今のゾド被害に対応できるような、こころのケアのガイドライン完成を待望する声が聞かれました。

モンゴル赤が特に遊牧民等、社会的に弱い立場にある人々に率先して支援を届ける姿勢は、地元の信頼を集めています。日本赤十字社は、これまで国内で培った救急法やこころのケアの知見など総合力を発揮しながら、この取り組みを支援してまいります。

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